線虫に関する研究

ネコブセンチュウとは

線虫は体長0.5~2mm程度と非常に小さく、ワームのような形を
した多細胞動物です。線虫は肉眼ではほとんど見えませんが、
その外観、生活環および生息地はとても多様です。線虫は、
ツンドラから熱帯雨林に至るまで、地球上の様々な環境に
適応しています。現在、15,000種ほどの線虫が知られていますが、
これは地球上に存在する動物種の八割を線虫が占めていることを
意味します。また、線虫たちは住んでいる環境に対して大切な
役割を持っています。

いくつかの線虫は他の植物や動物の体内に侵入し栄養を吸収します。
つまり寄生虫です。このような寄生性線虫は、しばしば宿主で
ある植物や動物に病気を引き起こします。最も有名な植物寄生性
線虫の一つはサツマイモネコブセンチュウMeloidogyne
incognita)です。

ネコブセンチュウは土壌中で孵化します。孵化後の個体中には、脂質を
主成分とする栄養源が備わっており、餌を摂取しなくても長期間
生きていられます。実験室では、12℃の水中につけておくだけで、
1年以上保存可能です。土壌中のネコブセンチュウは、植物の根から
分泌される何らかの物質を認識し、植物に接近、侵入します。この時、
ネコブセンチュウは細胞壁分解酵素を分泌し、根の細胞壁を溶かしながら
根に侵入します。その後ネコブセンチュウは根の中(維管束)を移動します。
ネコブセンチュウの口はストロー状になっており、口針と呼ばれます。
ネコブセンチュウは維管束付近にある自分の餌にするのにちょうど良い
細胞を見つけると、この口針を刺し、さまざまなエフェクター因子
注入します。エフェクター因子には、植物細胞を再分化させるタンパクや
植物細胞の防御機能を抑制するタンパク質などが含まれています。
エフェクター因子を注入された植物細胞は、通常の細胞では1個しかない
核が5-10個に増殖(多核化)し、細胞の体積も大きくなります。このような
細胞を巨大細胞と呼びます。巨大細胞の周りの細胞は細胞分裂が盛んになり、
これによりネコブセンチュウが感染した植物の根は、こぶのように膨れます。

巨大細胞では、多核の細胞から沢山のタンパク質がつくられます。
ネコブセンチュウは、巨大細胞に口針を刺し、このようなタンパク質を
エサとし、大きく成長します。大きくなったネコブセンチュウは、巨大
細胞付近に頭部を残したまま、尾部は根の表層付近まで達します。そして、
尾部から根の表面にゼリー状の物質を分泌し、その中に多くの卵を産みつけます
卵塊)。そのため一度ネコブセンチュウで土壌が汚染されると、作物は大変な
被害を受けることになります。

ネコブセンチュウの走化性

ネコブセンチュウの感染性幼虫は植物から分泌する化学物質のグラデーションに
従って、宿主を探します。このような行動を走化性と言います。
ネコブセンチュウは絶対寄生虫として生存のために植物に感染しなければ
ならないため、ネコブセンチュウにとって走化性はとても重要です。さらに、
ネコブセンチュウを誘引する化学物質は、ネコブセンチュウがどの植物を
宿主として好むのか、その手掛かりになると考えられます。

当研究室ではネコブセンチュウの行動を制御する化学物質の精製と
同定について研究を行っています。これまでのところ、有効的な
ネコブセンチュウ防除法はあまり確立されていません。したがって、
ネコブセンチュウの走化性を操作することは、効果的かつ環境に
やさしいネコブセンチュウ防除法として応用できると考えています。
そこで、当研究室ではさらなる線虫誘引物質の探索と、それらに
対応する線虫受容体タンパク質の同定に取り組んでいます。

画像出典:
Blumenthal and Davis (2004) Nat. Genet. 36(12): 1246-1247.
Yamaguchi et al. (2017) Front. Plant Sci. 8: 1195.
Oota et al. (2020) Mol. Plant 13(4): 658-665.
Tsai et al. (2019) Mol. Plant 12(1): 99-112.