← 前に戻る

(1) 陸上植物の葉緑体増殖機構に関する研究 その4


ここで、研究室で使っている植物について説明しましょう。熊本大学では、昔からコケ植物の研究が盛んに行われていました。私も熊本大学に来てからはコケ植物を研究材料として使用しています。図7として、材料の一つヒメツリガネゴケの生活環を示します。

ヒメツリガネゴケの生活環

図7 ヒメツリガネゴケの生活環

研究材料としてのヒメツリガネゴケの特徴は、植物体が小さく、培養が容易で生活環をまわすことができること、細胞学的に葉緑体を観察しやすいことがあげられます。そして、もう一つ重要な特徴としては、高等植物では難しい相同組換えによる遺伝子破壊実験を行うことができることにあります。ヒメツリガネゴケの葉緑体分裂に関しては、ドイツのフライブルグにいるR. ReskiらのグループがFtsZ遺伝子の遺伝子破壊を行い、巨大葉緑体が生じることを明らかにしていました。また、短報で、ペニシリンがヒメツリガネゴケで葉緑体の巨大化を引き起こすことを報告していました。
何故ペニシリンを使ったのか、直接Reskiさんに聞いたことがあるのですが、「コンタミしたから」ということでした。コンタミというのは、コンタミネーションのことで、この場合はコケの培養に細菌類が入り込んでしまうことをさしています。通常ヒメツリガネゴケは無菌的に培養しているので、細菌の混入は問題です。雑菌を除くために、抗生物質であるペニシリンを入れたところ、葉緑体の巨大化が見れたので論文にした、ということでした。この報告が我々の研究室で意外な展開をみせることになります。

→ 続きはこちらから。