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(1) 陸上植物の葉緑体増殖機構に関する研究 その3


色素体の分裂という現象はよく知られていたのですが、それに関する構造はわかっていませんでした。1986年、私が東大時代に所属していた研究室の主催者であった黒岩らによって、葉緑体の分裂赤道面の外側(細胞質側)にリング構造の葉緑体分裂装置が電子顕微鏡で発見されました。その後、この構造は葉緑体に普遍的に存在することが明らかとなりました。この辺りの詳細については、黒岩常祥著「細胞はどのように生まれたか」(岩波書店、高校生に贈る生物学シリーズ5)をご覧ください。

さて、このリング構造が細胞質側に存在するということは、この構造が共生したシアノバクテリア起源でないことを示唆しています。細胞質側というのは、シアノバクテリア側からみれば、完全に外になるからです。このことから、現在の葉緑体分裂機構は、シアノバクテリアと異なるシステムを用いているということがわかります。

では、起源のシアノバクテリアの分裂機構は、現在の葉緑体の分裂機構では使用されていないのでしょうか? これは、実は利用されています。1995年、アメリカのオスターヤングらは、モデル植物のシロイヌナズナにおいてftsZという遺伝子を見いだしました。これは、大腸菌が細胞分裂する時に働く遺伝子であり、分裂面直下の細胞内でリング構造を作ることが知られていました。

つまり、現在の葉緑体分裂機構は、起源のシアノバクテリアから来たシステムと、共生されたホスト側のシステムとから成り立っているということが言える訳です。まとめると、図6のようになります。

細菌の分裂と葉緑体の分裂

図6 左側がシアノバクテリアを含む細菌の分裂時の様子を示し、右側が葉緑体の分裂を示している。葉緑体は、まわりが細胞の細胞質であるが、シアノバクテリアの外側は細胞の外(外界)である。

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