Research
<日本語/English>
金属錯体は、構造的・電子的柔軟性に基づく特異的な外場応答性を示すことから、センサーやメモリーデバイス、分子アクチュエータとしての応用が期待されています。当研究室では、鉄、コバルトイオンから構築されるスピンクロスオーバー錯体や無限骨格を有する配位高分子の光、熱、ゲスト応答性に関する研究を展開しています。
光照射によりスピン状態が変換される光誘起スピン転移現象(LIESST)は、鉄二価錯体ではよく知られていますが、電子状態変換に応答した構造変化の小さい鉄三価錯体では不可能だと考えられていました。当研究室では、構造変化に”歪み”という新しいパラメータを導入することで、LIESSTを示す鉄三価錯体を世界で初めて開発しました。
○ Chem. Eur. J.
2009,
15, 3497-3508
○ J. Am. Chem. Soc.
2000,
122, 7126-7127.
無限骨格中に細孔を有する多孔性配位高分子は、ゲスト分子という化学的刺激に応答して骨格の機能を変換、修飾することができます。当研究室では、コバルト二価イオンから成る一次元配位高分子を開発し、溶媒分子によりスピン転移現象を変換することに成功しました。このようなスピン転移現象を示すコバルト配位高分子は非常に珍しく、一般的な鉄二価や三価の化合物とは異なるゲスト応答性の発現が期待されます。
○ Inorg. Chem.
2004,
43, 4124-4126.
○ J. Mater. Chem. C.
2015, 3, 7865-7869.
○ Dalton. Trans.
2021, 50, 7843-7853.
アルキル長鎖などを持つソフトマテリアルは、長鎖部位の熱応答による構造変化や液晶性の発現など分子の柔軟性に由来した多彩な物性を示します。当研究室では、金属錯体骨格にアルキル長鎖を修飾することで、錯体の電子物性、構造的特徴を反映した多機能性ソフトマテリアルを開発しています。
スピンクロスオーバー(SCO)現象を示す鉄やコバルト錯体にアルキル長鎖を修飾することで、電子状態変換が可能な液晶材料を開発しました。また、個体ー液晶の相転移と電子状態変換が同期して起こる多機能性液晶材料についても報告しています。さらに、四角錐構造を持つオキソバナジウム錯体にアルキル長鎖を修飾し、バナナ型分子構造を成すことで大きなヒステリシスを示す強誘電性金属錯体液晶材料の開発にも成功しています。アルキル長鎖を付加する位置により異なる強誘電性が得られており、分子構造設計の重要性を示しました。
○ Adv. Mater.
2004,
16,
869-872.
○ Inorg. Chem.
2005,
44,
7295-7297.
○ Inorg. Chem.
2007,
46,
7692-7694.
○ Polyhedron
2007,
26,
2375-2380.
○ Inorg. Chem. Commun.
2011,
14,
1498-1500.
○ Polyhedron
2011,
30,
3001-3005.
○ Inorg. Chem. Commun.
2012,
16,
89-91.
○ J. Inorg. Organomet. Polym.
2013,
23,
186-192.
○ Sci Rep.
2015,
5,
16606.
通常、スピンクロスオーバー(スピン転移)現象はエントロピー変化に支配されるため、低温で低スピン状態、高温で高スピン状態を取ります。しかし、当研究室で開発したアルキル長鎖修飾型ターピリジンコバルト錯体が真逆の”逆スピン転移”現象を示すことを報告しました。これは、アルキル長鎖の熱揺らぎを利用することで従来の設計では不可能な金属錯体の動的電子状態を発現可能であることを示しています。
○ Angew. Chem. Int. Ed.
2005,
44,
4899-4903.
○ Polyhedron
2009,
28,
2053-2057.
○ Inorg. Chem.
2010,
49,
1428-1432.
○ Dalton Trans.
2011,
40,
2167-2169.
○ Eur.
J. Inorg. Chem. 2012,
2769-2775.
○
Inorg.
Chem. 2016,
55,
3332-3337.
軽さと強さに加え電子機能をも持ち合わせる炭素材料(カーボンマテリアル)は、次世代の機能性材料として大きく着目され近年活発に研究されています。当研究室では、その中でも酸化グラフェンやカーボンスフィアなどを用いたプロトン伝導体および電気化学触媒の開発、金属錯体など無機材料との複合化による全く新しい機能性材料の創出を目指しています。
有名なグラフェンを酸化することで得られる酸化グラフェン(GO)が、グラフェンの持つ導電性を失う代わりに高いプロトン伝導性を示すことを世界で初めて見出しました。プロトン伝導体として働く炭素材料は珍しく、燃料電池のための固体電解質としての応用が期待されています。また、カーボンスフィアを酸化することで、熱安定性の高いプロトン伝導体の合成にも成功しています。
○ J. Am. Chem. Soc. 2013,
135, 8097-8100.
○ Angew. Chem. Int. Ed.
2014, 53, 6997-7000.
○ Chem. Asian J.
2016,
11, 2322-2327.
酸化グラフェン(GO)は表面上に多くの酸素官能基を有するため、金属イオンなどと相互作用し複合体を形成することができます。当研究室では、鉄、コバルト、ニッケルなどの遷移金属酸化物との複合化により磁気的特性と電気的特性を併せ持つハイブリッド体の合成に成功しました。また、金属錯体との複合化により、GOの特性を生かした錯体の物性制御も研究展開しています。
○ Adv. Funct. Mater. 2013, 23, 323-332.
○ Inorg. Chem. Front.
2015,
2, 886-892.
○ Dalton Trans. 2015,
44, 5049-5052.
○ Inorg. Chem. Front.
2016,
3, 842-848.