学部生のみなさんへ
物理化学 「物理化学」と一言で言っても、その対象とする学問領域は非常に広範です。それは「物理化学」の著名な教科書、例えば、「アトキンス物理化学」の索引を見れば一目瞭然でしょう。講義で学ぶ量子化学をはじめとする物理化学は難解でイメージしづらいものかもしれませんが、講義中にも述べている通り、現代の化学を真に理解するには「物理化学」をある程度理解していることが必須です。高校で慣れ親しみ興味をもっている学生さんが多い有機化学を学ぶ上でも物理化学の理解は不可欠で、それが足らない場合は残念ながら「有機化学っぽい作業」をしているだけになってしまいます。物理化学の講義で習う内容はあらゆる化学の礎になっていると思ってください。
一方で、私の専門は「物理化学」の中で固体状態にある物質の構造や性質を研究対象とする「固体化学」と分類される領域です。固体の性質、「電気伝導性」、「磁性」、「光学特性」などの固体物性は電子の振る舞いが支配していることから、その電子の振る舞いを自分の意のままに操ることができれば物質の機能を制御することができるはずです。その制御を分子設計から挑むのが固体化学者であり当グループの目指すところになります。
私たちは有機分子・錯体分子といった低分子化合物を用いた機能性物質開発、新規現象探索を主に行っており、得られる物質と知見は「固体物理学」や「応用物理学」(と「生物化学」)と密接な連携をすることで、さまざまな世界と繋がりを持てる可能性に満ちています。
その分子の性質は「固体」となったときにどのように現れるのか。
目指す物性を発現させるにはその分子を「固体」状態でどのように配列させれば良いのか。
実際にできた「固体」の性質は狙い通りか、期待はずれか。
観測した「固体物性」の起源はどこにあり、分子設計をどのように改良すれば目指す物性発現に近づけられるか。
それが「固体化学」の最高の楽しさです。
ところで、こうなると「他の化学の礎となる」とはちょっと言えませんね。講義と研究は密接に繋がってもいますが、かけ離れてもいます。私の場合は「興味をもった研究が「物理化学」に分類されていたから物理化学に所属している」というのが正直な感覚です。
熊本大で指導した多くの学生も「物理化学」というよりも「電気が流れる新しい分子結晶を作ってるんだぁ。」「磁石を近づけると抵抗が変わる?」とか「有機薄膜とかその素子って面白そう。」という感じで「松田のやっていること」「固体化学」に興味をもち私のグループを志望した人が多そうです。彼ら、彼女らも「気がついたら物理化学にいた」のでしょう。
「物理化学」と身構えず、一度こちらの世界を覗きにきてみませんか?私のグループの学生の多くは、電子の振る舞いを想像して物質や素子設計・分子合成を続ける日々の中で、たくさんのことを学んで良い顔をして社会に飛び立っていますよ。