植物多様性学研究グループ(藤井研究室)

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研究内容 Research

このページでは私の研究室で進めてきた、もしくは現在進行形の研究についてご紹介いたします。

日本産高山植物の分布変遷過程の推定に関する研究

 日本列島の高山植物がどのような歴史を経て現在の分布を持つに至ったのかを明らかにするために、これまでヨツバシオガマ、エゾコザクラなどを中心に約60種の解析を行ってきました。それら各種の葉緑体DNAの地理的な変異を調査した結果、約半数の種において集団間分化が生じていることが分かりました。さらに集団間の系統解析を行った結果、日本列島の本州中部山岳(飯豊山以南)の集団が系統的に一つにまとまるという共通パターンが複数の種において存在していることが分かりました(下図)。これらの結果から私は本州中部が間氷期の避難地(レフュジア)として働き、日本での高山帯フロラの成立に重要な役割を果たしたのであろうと考えています(Fujii and Senni 2006)。

日本産高山植物の分布変遷過程の推定

満鮮要素植物の分子系統地理学的研究

 本研究では東アジアにおける草原性フロラの成立過程を解明するために、「満鮮系植物群」に焦点を当てて研究を進めています。この植物群は中国大陸東北部から朝鮮半島、日本列島にかけて分布しており、分化程度が小さいことから比較的最近の氷期に中国大陸から分布を広げたものと考えられています。しかしこの分布変遷史に関する仮説を検証した研究は皆無であり、再検証が必要と考えられます。また近年国内において草原面積の減少から草原に生育する植物の多くが絶滅危惧植物に指定されており、そうした観点からも研究を急ぐ必要があります。本研究では韓国、中国、ロシアの3カ国にまたがる海外サンプリングを行い、さらに新たな試みとして次世代シーケンサーを用いたRAD-Seq解析を行い、分子系統地理学的解析を行う予定です。現在まだ論文には至っておりませんが、満鮮要素の代表種の一つであるキスミレについて解析を進めた結果は、2016年9月の日本植物学会や2018年3月の日本植物分類学会で発表を行いました。

キスミレ阿蘇
キスミレ(熊本県阿蘇地方)

キスミレ沿海州
キスミレ(ロシア沿海州)

日本産シオガマギク属の固有種群の分化過程に関する研究

 日本産シオガマギク属(Pedicularis L.)は15種が知られていますが、その半数が日本の固有種です。それらの固有種群の起源を探るための研究を進めています。その一例として、ハンカイシオガマ列植物6種を用いて分子系統地理学的解析を行った結果、大陸産の2種が系統樹上祖先的な位置につき,日本産4種は大きく2つの系統に分かれるという結果となりました(Fujii 2007)。一方がイワテシオガマやハンカイシオガマ,ヤクシマシオガマを含む太平洋側の系統,もう一方が日本海側のオニシオガマの系統です。これらの結果から、本種群が大陸起源であり、過去に太平洋側と日本海側に分かれて分布していた時期があったと推定されます。

ヤクシマシオガマ
ヤクシマシオガマ

オニシオガマ
オニシオガマ

ヨツバシオガマの分類学的研究

 前述した高山植物の研究から派生したテーマですが、ヨツバシオガマの分類学的な研究も進めています。分子データと形態的な解析から、ヨツバシオガマの北方系統と本州中部系統は種レベルまで分化していることが明らかとなりました。これまでの分類学的な取り扱いの経緯から、これまでは両系統は合わせて一つの種(Pedicularis chamissonis)とされていたのですが、これからは北方系統をP. chamissonis、本州中部系統をP. japonicaとして扱うのが妥当であると提案しています(Fujii et al. 2013)。

ヤクシマシオガマ
北方系統

オニシオガマ
本州中部系統

冷温帯優占樹種ブナの葉緑体DNAの地理的変異に関する研究

 日本の冷温帯フロラの成立過程を探るために、ブナの葉緑体DNAの解析を進めています。その結果、多くの種内多型が検出され、それらは地域ごとにまとまっていました。また集団間の系統解析の結果、北東日本の日本海側と南西日本の太平洋側でまとまる大きな2つの系統があるということが明らかとなりました。この結果は、ブナの過去の分布変遷過程における大きな2つの移住ルートを示しているものと考えています(Fujii et al. 2002)。さらに関東地方西部において、2つの系統間の境界線付近の調査を行った結果、2つの系統間は約5〜10kmの明瞭な境界線を維持していることが明らかとなりました(Kobashi et al. 2006)。

長野県風越山のブナ林
長野県風越山のブナ林

ブナ葉緑体DVAの2第系統の地理的分布

阿蘇の希少植物の保全遺伝学的研究

 九州中北部に位置する阿蘇では、日本では最大級の草原が広がっています。そこにはいわゆる満鮮要素と呼ばれる草原性植物を数多く生育しています。しかし現在、その草原が失われつつあり、それにともなってそこに生育する草原性植物も希少な存在となっています。そこでそれらの植物が持つ遺伝的多様性を評価し、今後の保全に活かすための研究を進めています。これまでオグラセンノウやツクシクガイソウなどの解析を行いました(Yamasaki et al. 2013, Fujii et al. 2016)。

オグラセンノウ
オグラセンノウ

ツクシクガイソウ
ツクシクガイソウ

阿蘇の草原再生に関わる研究

 阿蘇の草原を再生させ、ハナシノブやヒメユリなどの草原性植物を取り戻すための活動を行っているNPO法人阿蘇花野協会の活動に関わっています。その中で野焼きや草刈りといった作業が草原再生に対してどのような効果をもたらすのかを明らかにするために、当協会が所有しているナショナルトラスト地においてコドラート調査やフロラ調査などを行っています。また昨年はスギ林を伐採し、草原に戻すという取り組みを進められているため、スギ林から草原への植生変化を追跡しています。

放棄され低木などが侵入し藪化した草原
放棄され低木などが侵入し藪化した草原

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