教育プログラム



生物学コース




研究の紹介



遺伝子発現の制御機構
 細胞内には遺伝子を正常に機能させるための様々な制御機構が存在します。 我々は、それらの制御機構の中で、未だに不明な点が多い、 mRNAに遺伝情報を写し取ってからの制御の仕組み(mRNAの情報加工や細胞内輸送の制御)について、 酵母や培養動物細胞を用いて調べています。

mRNAの核から細胞質への輸送が異常となった分裂酵母変異株の染色像
(mRNA:赤、核小体:緑、DNA:青)

細胞運命決定の制御機構
 我々ヒトを含む多細胞動物では、発生過程においても生後においても細胞が生きるか、死ぬか、増殖するか、分化するかなどの運命を決定することで、複雑な構造をもち高度な機能を果たす個体を形成、維持しています。
 私たちは、細胞の運命がどのようにして決定されるかをマウス、ヒト細胞などを用いて分子、細胞、個体レベルで研究しています。
 本研究によって生命の成り立ちを理解するだけでなく、病気の治療に役立つことも期待されます。

植物のオルガネラと形態形成
 植物細胞は、光合成を行う細胞小器官(オルガネラ)である葉緑体を持ちます。 コケ植物ヒメツリガネゴケや双子葉植物シロイヌナズナ等を用いて、 細胞内で葉緑体が分裂・増殖する機構について分子生物学的・逆遺伝学的・形態学的手法で調べています。 また、植物の形態形成機構についても研究を行っています。

胞子から発芽したばかりのヒメツリガネゴケ。右は葉緑体分裂が異常になったミュータントで葉緑体が巨大化している。

植物の環境ストレス応答機構
 スサビノリは海苔養殖に利用されている海藻の一種です。 赤潮などによる海水中の栄養塩類の低下や地球温暖化による海水温上昇などの悪環境になると, ノリは生き延びるために,光合成アンテナ装置フィコビリソームを分解し,いわゆる「色落ち」を起こします。 私達は「ノリの色落ち」などの植物のもつさまざまな環境ストレス応答能のしくみを遺伝子のレベルから調べています。


性決定・性分化機構
 性決定・性分化は、多くの生物の存続に不可欠な雄と雌を作り分けるシステムのことです。 この生物が元来保有している基本的な分子機構を解明するべく、水温調節により性分化を制御できるヒラメと、遺伝学的解析が可能なメダカを用いて研究を行っています。また私たちは、試験管内で生殖細胞を増殖・分化させ、「試験管内で精子と卵をつくる」技術開発にも着手しています。 今後、この新たな発生工学システムが確立されれば、メダカ等の絶滅危惧種の再生に役立つのではないかと期待しています。

卵母細胞が緑色蛍光を発する遺伝子導入メダカ系統(エンハンサートラップ系統)

生殖細胞の特性
 ヒトなど多細胞動物個体を構成する細胞群は、「体細胞」と「生殖細胞」に大別することができます。 このうち体細胞は、いずれ歳をとり死んでいきます。 一方、生殖細胞は、別個体の生殖細胞と融合(受精)すれば、新しい個体へと発生を始めることができます。 「どうして生殖細胞だけが受精して新しい個体になることができるのか?」という問題について、 受精卵が大きく体外で発生する両生類の実験材料としての利点を活用して研究しています。 実際には、生殖細胞の分化に関わる遺伝子の検索、およびその翻訳産物の機能の解析を行っています。

シダ植物の多様性の解析
 シダ植物は世界に約2万種が知られています。 研究が進んだ日本でもまだ未知なものがたくさんあり、なかには名前もつかないまま絶滅しかけているものもあります。 私たちはシダ植物の種分化機構と系統分類を明らかにするため、染色体などの細胞学、蛋白質多型や葉緑体DNA多型を用いた遺伝学、 外部形態や微細構造などの形態学、生態学など様々な面からの解析を行っています。

ホソバミヤマノコギリシダと体細胞中期染色体 2n = 272

DNA 複製制御の生化学、遺伝学、薬理学
 DNA 複製は細胞増殖に必須のイベントであり、厳密に制御されています。 この制御機構が破綻すると、細胞癌化などの疾病を引き起こします。 またDNA 複製は抗癌剤の作用ターゲットの一つとしても重要です。 私達の研究室では真核細胞のDNA 複製制御機構をアフリカツメガエルや酵母を用いて生化学的、遺伝学的に解析しています。 また複製酵素に対する阻害剤の基礎的研究も行っています。

DNA複製制御遺伝子破壊酵母株の核形態。破壊株では野生株と比較して異常な核形態が見られる(矢印)。

底生動物の繁殖生態・行動生態
海岸(干潟・岩礁・浅海)に生息する甲殻類や貝類の繁殖生態・行動生態を研究しています。 生物のライフサイクルや行動がどのように環境に適応し、進化してきたかを知ることは、重要で興味深いテーマです。 一般にこれらの研究は基礎研究と位置づけられていますが、研究成果は沿岸域の種多様性の保全や水産にも応用され、地域に貢献しています。

(写真左)巨大ハサミを振って雌に求愛するオキナワハクセンシオマネキ
(写真右)生きている化石ミドリシャミセンガイ(腕足動物)

日本列島フロラの起源と多様性の解析
 日本列島には多くの固有種を含んだ多様な植物相(フロラ)を有しており、世界的にみても多様性に富んだホットスポットとして知られています。 この日本列島フロラがどのような歴史的過程を経て生じてきたのかを解明するために、主に高山植物であるシオガマギク属や冷温帯林の優占樹種であるブナを用いて研究を進めています。 また熊本・阿蘇の植物多様性を理解するために、草原生植物を用いた分類学的研究や草原再生に関する研究も進めています。

本州中部山岳に産するヨツバシオガマ(狭義)は、日本列島で固有に分化した種であることが明らかとなった(撮影地:石川県白山)。