熊本大学 理学部

Pure Science

節足動物化石を用いた古生物学的研究と環境科学への応用

地球環境科学コース 准教授 田中 源吾

 皆さんは節足動物というと、どういったイメージを持つでしょうか?ムカデやダンゴムシのように、脚や節がたくさんあって、気持ち悪いとか、エビ・カニのように美味しそうとか、蝶やコガネムシのように美しいとか、個人によって様々だと思います。地球上で記載されている(分類学的に学名を持つ)生物種は、約300万種といわれています。そしてその半数以上が節足動物なのです。地球は節足動物の星ともいわれるほど、節足動物は地球上で最も繁栄しています。

 私は節足動物のなかでも介形虫という、小さな甲殻類を研究しています(図1)。介形虫は炭酸カルシウムとキチンから構成される左右2枚の殻をもち、7~8回脱皮して成体になります。一生涯底生生活を営むので、分散に時間がかかること、地形や水質などに分布が規制されることから、環境の指標として、また節足動物の進化の理解にも重宝されています。極域から深海、高山の氷河の水、さらには滝や田まで、水のある所にはどこにでも生息しています。さらに殻が化石として保存され、5億年以上の化石記録を持つことから、古環境の復元や古地理の復元、さらには進化古生物の分野でも重要な分類群です。古環境の復元は、津波や人為的環境改変といった人類史に直結した領域も含みます。介形虫は様々なことを教えてくれますが、その生態は謎な部分が多く、水の塊を抱えて上陸を試みている種や、ナマコの背中に乗っているものもいます。多くの古生物とことなり、顕生代の5大大量絶滅とは無関係に栄枯盛衰を繰り返しています。

 介形虫を理解するためには、他の節足動物との違いを調べる必要が出てきます。そこで私は、カンブリア紀以降の節足動物化石の研究にも取り組んでいます。カンブリア紀にも節足動物は、生物の中で最も種数が多かったことが化石記録からわかっています。カンブリア紀の節足動物には、現在の節足動物と似ても似つかないような外形のものがたくさんいます。そこで、カンブリア紀のアラルコメネウスという節足動物を元素分析やX線CTを用いて調べたところ、中枢神経系が保存されていたことがわかりました。中枢神経系は現在の節足動物の一分類群である鋏角類と一致しました。このことから、アラルコメネウスは鋏角類の祖先であったことが分かりました。

図1 八代海の泥底に生息する介形虫の一種。左側面を光学顕微鏡で撮影。前方の背中側の銀色に光っている丸い構造は眼。体長は約1mm。

図2 カンブリア紀の節足動物アラルコメネウスの化石(左)。元素分析およびX線CTから得られた中枢神経系(中央)、中枢神経系の名称(右)。