熊本大学 理学部

Pure Science

花崗岩がもたらす大陸地殻の発達進化の解明と人類の地下深部の活用

地球環境科学コース 教授 湯口 貴史

岩石や鉱物を研究する意味とは何でしょうか。岩石や鉱物には美しく,集めるだけで楽しいものもあります。しかし,岩石や鉱物にはそれ以上の役割があります。それは地球の歴史のレコーダーの役割です。地球(地殻)の発達・進化を記録しています。顕微鏡観察や化学分析,年代測定を通して岩石や鉱物から情報を抽出し,それらをもとに地殻の発達・進化の復元が可能です。

 岩石の中で,私は花崗岩を対象とした研究を進めています。花崗岩はマグマ溜りが地下の深部でゆっくりと冷却して形成した岩石であり,大陸地殻の多くの領域を占めます。御影石という名前でなじみが深いかもしれません。マグマ溜りから放出された熱は(高温型)変成岩をもたらします。この変成岩も大陸地殻の多くを占める岩石です。このため,マグマ溜りから花崗岩への熱的進化(冷却過程)の解明は、重要な意味を持ちます。私はサブソリダス組織を用いた岩石学的手法やジルコンU-Pb年代等を用いた熱年代学的手法により、定量的な冷却様式の解明を行っています。

 また,花崗岩を対象とした石油や天然ガスの地下貯蔵が行われています。例えば,愛媛県には菊間国家石油備蓄基地があり,花崗岩に対して石油の地下貯蔵が行われています。これらの深部地下の活用で重要となるのが,貯蔵物が岩石中に逸散し,人間の生活圏に侵入しないことです。そのためには,岩石中の物質移動を評価する必要があります。花崗岩中では割れ目(図1)を通じた物質移動が支配的です。そこで,私は冷却過程から、割れ目の分布を評価する手法を構築しました。今後も花崗岩の形成過程の解明等の理学的研究に主軸に置きつつ,得られた知見を工学面に応用させる理工横断型の研究を進めて行きたいと考えています。

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図1 花崗岩のボーリングコア中に観察される割れ目
割れ目面に地下水から沈殿した炭酸塩鉱物が産出