数学コース 准教授 藤田 直樹
まずコンウェイとコクセターが1970年代に発展させたフリーズ・パターンの話から始めましょう(フリーズ(frieze)とは, ギリシャやローマの神殿にあるような, 装飾が施された帯状の小壁のことです). 次のパターンに数字を入れていくゲームを考えます:
ただしルールとしてのときとなるようにします. つまりです. このルールに従って左側から順番に数字を入れていきましょう. すると次のようになり, 帯状の数字のパターンが得られます. これをフリーズ・パターンといいます.
フリーズ・パターンは興味深い性質を二つ持っています. 一つ目はしばらく繰り返すと再び1が並び, 同じパターンが繰り返されるという「周期性」があることです. 二つ目は現れる数がすべて正の整数になっていることです. はという分数の形の式で定まっていますので, このことは当たり前ではありません. 例えばの場合となってしまいますが, 上のゲームではこのようなことは起こっていません. これはただの偶然ではなく, パターンの段の数や左端の1の並びを色々変えてみても同じ性質を持つフリーズ・パターンが現れます.
現在では, ここで紹介したフリーズ・パターンの性質は, フォーミンとゼレヴィンスキーによって2000年頃に導入された「クラスター代数」という一般的な枠組みの特別な場合として理解されています. クラスター(cluster)は「集まり」や「集団」などを表す単語であり, クラスター代数は団代数とも呼ばれています. フリーズ・パターンにおけるからを求める操作はクラスター代数の文脈では「変異」という操作に対応します.
クラスター代数の構造はフリーズ・パターンだけでなく数学の様々な分野に現れます. 例えば, 対称性を数学的に調べる表現論という分野, 代数幾何や双曲幾何などの幾何学, 完全WKB解析のような微分方程式に関する理論, 超対称性のような物理学の理論などにおいてクラスター代数の構造が現れ, 活発な研究がなされています. 私自身もある種の図形の上の関数たちがクラスター代数の構造を持つことを利用して, 図形の退化の様子を調べたりしています. 例えば異なる種類の退化をクラスター代数を用いて統一的に理解し, 変異によって結び付けるといった研究を行ってきました.
共通の構造を架け橋として異なるものごとを結び付けたり, 様々な分野を統一的に理解したりできるということは, 数学の奥深さの一つの現れであると思います. この記事を読んで少しでも数学の魅力を感じてもらえたら幸いです.