化学コース 助教 荒江 祥永
私は、熊本大学で「有機化学」の実習を担当していますが、学生として初めて研究に取り組んだ(学部4年生)時に専門としていたのは、実は「無機(錯体)化学」でした。そこから、研究を進めていくうちに、「有機金属化学」という有機化学と無機化学の間を専門とする研究を行うようになり現在に至ります。
この「有機金属化学」という分野では炭素と(主に遷移)金属との間に結合をもつような化合物を扱います。これらの化合物は、ユニークな構造をしていたり、有用な反応性を示したりと、非常に興味深いです。例えば、「Zeise塩」という化合物はエチレン(常温でガス状の分子)が白金(Pt)に結合した構造をしていますし、「フェロセン」という化合物は,2つのシクロペンタジエニル基が鉄(Fe)に「面で」結合した構造をしています。また、炭素-マグネシウムや炭素-亜鉛結合を有するGrignard試薬や有機亜鉛試薬は,炭素-炭素結合をつくる強力なツールとして使われていますし、Ziegler法やWacker法、遷移金属触媒を用いたクロスカップリング反応など、実験室だけでなく工業的にも広く活用されています。
このように、有機金属化合物は、ユニークで有用なものが多く知られていますが、空気中で不安定(酸素や水と反応してしまう)な場合があります。こうした中で私たちは、簡単に合成や精製ができる空気中で安定な有機金属化学種を見出し、それらの性質や反応性について研究しています。
大学で扱う「化学」という学問は、実は非常に広い領域をカバーする学問で、「有機金属化学」のように、高校では扱わないものが多数あります。その多くは、有機化学と無機化学の間に相当する分野のように、2つもしくは複数の分野に跨っており、この「幅広さ」というのが一つの魅力だと私は思っています。「研究」というのは、ともすれば視野が狭くなりがちですが、異なる領域の異なる考え方を取り入れることで大きく道が開けることがあります。「化学」に携わる者として、狭い領域を開拓するだけでなく、広い視野を持って研究をすすめていける化学者でありたいと私は考えています。
化学に興味があるみなさんも、ぜひ幅広く興味を持っていろいろなことに挑戦してみてください!