熊本大学 理学部

Pure Science

最適制御 〜数学としての側面〜

数学コース 教授 貝瀬 秀裕

 私の専門分野は最適制御です。最適制御と聞いてどのような分野を想像するでしょうか?ロボットか何か機械を作って、それを思いのまま制御するための研究をしている?それも最適制御の研究ですが、私は数学コースに所属しています。実験を行うような装置も持っていません。では、数学として最適制御はどのようなことを研究しているのかを説明していきたいと思います。

 まずは、「モデル」という言葉を理解することが重要です。モデルは、日常会話でもファッションモデルやプラモデルなど馴染みがある言葉かと思いますが、ここでは少しニュアンスが違います。例えば、質点の運動について述べた運動の第2法則がありますが、そこでは質点の運動はニュートンの運動方程式という微分方程式で表せます。ボールを投げたとき、ボールが放物線を描くことは、ボール (質点) が重力の影響を受けるという条件の下で運動方程式を解くことで理解できます。つまり、ボールが放物線を描くという自然現象を、人間が作り出した数学である微分方程式を使って説明できるということです。この関係において、ニュートンの運動方程式を質点の運動に対する「モデル」といいます。もっと一般的には、自然現象や社会現象、工学などにおける工業製品なども含め、時事刻々と状態が変化する様々な「モノ」や「コト」を、数学を使って記述したものをモデルといいます。ですので、モデルを調べることは数学の研究に入ってきます。

 次に制御について説明します。例えば、自動車はガソリンを燃焼させてそれを推進力に変えて、物理法則に従って走行します。ただ、先ほど説明したボールの運動と根本的に異なる点があります。ボールの運動では、ボールを投げた後はボールに触ることはできません。一方で、自動車の走行では、ハンドルを操作したり、アクセルを踏んだり、ブレーキをかけたりと自動車の動きに対して運転手が積極的に関与することができます。ここで、ハンドル、アクセル、ブレーキは制御と呼ばれます。この状況を先ほどのモデルを使って説明すると自動車は、ハンドル、アクセル、ブレーキなど能動的にコントロールできる要素を組み込んだ新たなモデルということができます。

 最後に最適制御についてです。先の自動車の例に戻ります。運転手はハンドルやアクセルの操作で自動車を意のままに動かすことができます。自動車を運転するときは、ある場所からある場所に行きたいなど目的を持っている場合が多いと思います。その際に燃料の消費はできるだけ少なく済ませたいなど条件があると、場当たり的に運転をするのは得策ではありません。与えられた条件の中で、最も合理的な運転操作を、モデルを用いて見つけ出すのが最適制御の問題です。少し抽象的な説明をすると、自然現象や社会現象、工学における製品など制御を含む数学モデルに対して、与えられた基準の下で最も良い制御の方法を見つけ出すのが最適制御と呼ばれる分野です。

 数学としての最適制御は、20世紀中頃の宇宙工学を中心とした工学分野において活発な研究が始まり、多くの数学理論が発展してきました。いまでは工学に限らず自然科学、社会科学など様々な分野で最適制御は研究されています。また、これらの数学以外の分野から新たな数学的問題が提起されて、数学の研究にも刺激を与えています。私の研究の具体的な内容ついては触れることはできませんでしたが、この記事を読んで少しでも数学としての最適制御に関心を持ってもらえたら幸いです。