数学コース 教授 三沢 正史
熱方程式を考えて見ましょう。無限に長い針金を数直線で表し、上の位置を実数、時刻を非負実数で表します。このとき、針金の温度は
の方程式を満たします。ここで、はとの2変数関数で、はに関する偏導関数、はに関する偏導関数です.これらは、2変数関数を変数またはに関して1 変数微分して得られる導関数です.に関する2階偏導関数をと書きます.上記の方程式はこれら偏導関数の関係を表し、熱方程式と呼ばれる、典型的な偏微分方程式です。初期時刻での値(初期値という)を関数で与えます
このとき、(1)と(2)を熱方程式に対する初期値問題といい、これを満たす関数をこの問題の解といいます.
この問題の解はどのような形をしているでしょうか.の2回微分が正であるとき、解のグラフはについて下に凸です。このとき熱方程式(1)によれば、の一回微分は正となり、解はについて増加となります.
また、が負であるとき、 解のグラフはについて上に凸で、 熱方程式(1) によって、の一回微分は負となり、 解はについて減少です.
これらのことから、熱方程式(1)の解のグラフのに関する凹凸は、時間が経過するにつれ平らにならされます。つまり、初期値の凹凸は、 時間とともに平らになっていきます.これを熱方程式(1)の平滑化作用といいます。さらにこのことから、解の最大値および最小値は、初期値の最大値および最小値と等しくなります(最大最小値の原理といいます).
初期値が非負で恒等的に零ではないとき、解は正の値のみをとり零の値はとりません。これを熱方程式(1)の無限伝播性といいます.
また、熱方程式(1)の以上の性質から、初期値が階段状のグラフをもつ不連続関数であっても、解のグラフは少し時間が経てば滑らかになります.
熱方程式(1)の解を初期値によって表すことができます
この積分中の関数を熱核といいます。この解の表示(3)は、熱方程式(1)が線形方程式である、すなわち解の重ね合わせ原理(解の実数倍の和がまた解となること) が成り立つことによって、 フーリエ変換を使って計算できます。初期値の上積分が有限値ならば、この解表示(3)から解は時間無限大にするとき零に収束することがわかります.
以上に述べた、熱方程式の性質は、熱せられた無限に長い針金の温度は時間経過とともに冷めていく現象とうまく合っています(しかし、ひとつ妙なところがありますが...わかりますか).
針金の熱の温度分布の数理モデルについて考えてみました。興味があったらぜひ偏微分方程式の本を読んでみてください.