熊本大学理学部長
磯部 博志
「理学」とは、広く「自然の理(ことわり)を明らかにする」学問です。ここで言う「自然の理」には、この宇宙を構成する時間と空間の中で、そこに存在する、あるいはかつて存在していた、そして将来も存在するであろうすべての事物とそれらの性質、そこで起こる現象や出来事、そして、それらの間の関係を司る普遍的な論理が含まれています。
このように聞くと、なんだか漠然としてつかみ所が無いように思うかもしれません。上で述べた、この宇宙に存在する事物や現象、論理は普遍的であるからこそ、それをそのまま受け入れるだけでは「科学」とはなりません。「科学」という言葉にはある特定の対象を突き詰め、それを極める営みという意味が含まれています。もちろん、自然を観察、観測し、その姿を知ることは重要です。一見全く違う対象のように思えても、そこに普遍的な自然の理が働いていることに気づくことによって、初めて"不思議"が生まれます。科学的想像力、連想力に裏付けられた"不思議"と思う心を"好奇心"へと深化し、それを追究することが「科学」につながります。私たちが築き上げてきた「科学」はこのようにして生まれました。今では日常として当たり前に利用し、そしてこれからも社会を支えていくすべての科学技術の礎は、「理学」の基盤によって支えられているのです。
熊本大学理学部では、理学科一学科制により、幅広い分野の基礎、すなわち「理学」を学修した後、それに支えられた専門分野の最先端へとつながる「科学」を学ぶ場であるコースを自由に選択することができます。これは、「理学」から「科学」へと至る道筋そのものです。その過程で、自然科学の各分野にはそれらを隔てる境界などはなく、互いに密接に関連し、結びついていることを実感することになるでしょう。そこで最も大切なのは、人間の本能とも言える未知のものを"知りたい"という欲求です。熊本大学理学部で、一人ひとりが"なぜ?"を大切に、主体的な興味をもって"知りたい"と思う対象を見つけて下さい。
21世紀も四半世紀が過ぎようとしています。不確実性と揺らぎに満ちた世界の中で、「理学」を基礎とした知識と普遍的な考え方を身につけ、幅広い視野をもち、それぞれの分野での「科学」を担う人材が求められています。熊本大学理学部は、そのような人材を輩出することを通じて、多様性に富み持続可能な社会の実現を目指しています。