熊本大学大学院先端科学研究部(理学系) |
数学分野 |
准教授 |
教育研究分野:解析学 |
専門分野:偏微分方程式論, 函数不等式
研究テーマ:函数解析を用いた時間発展方程式の解析
偏微分方程式には大きく3つの型, 楕円型・放物型・双曲型が知られており, 例えば針金の各点における温度変化を記述する熱方程式は放物型に分類されます. この熱方程式は, その解のグラフが時間とともに平らにならされ, 滑らかとなる平滑化効果を持ちます. その熱方程式の平滑化効果と統計力学や情報理論等の分野に現れる Boltzmann−Shannon エントロピーに関する函数不等式の対応に興味があり研究をしてきました. また, 熱方程式をはじめとする拡散方程式の平滑化効果の応用として, 移流拡散方程式と呼ばれる非線形偏微分方程式について函数解析を基礎に研究しています. この方程式は, 天文学における恒星を構成する物質の運動や半導体素子設計における電子と正孔の運動を記述する数理モデルにおいて現れ, 大きく異なる物理スケールに登場する普遍的な数理構造を代表している問題となっています. 当研究室の研究テーマは以下です:
1. 拡散方程式の解の時空間変数に関する正則性とその非線形偏微分方程式への応用.
2. 拡散方程式に対応するエントロピー汎函数に関する函数不等式の精密な解析.
3. 拡散方程式が持つ平滑化効果の多角的な解析.
研究成果
1. 生物化学におけるキイロタマホコリカビといった走化性粘菌の運動を記述する Keller−Segel 系の初期値問題が, 空間遠方において減衰しない函数空間において適切, すなわち, 解が一意的に存在し, 初期値に関する連続依存性が成り立つことを示した. また, Keller−Segel 系の解がこの函数空間の枠組みにおいて, 緩和時間パラメータが無限大で, 移流拡散方程式の解に収束することを証明した.
2. 拡散方程式に対応するエントロピー汎函数に関する函数不等式の最良定数とそれを達成する函数(optimizer)を同定した. その応用として, 不確定性関係を意味する函数不等式を導出し, その最良定数と optimizer を同定した. また, 函数不等式において, その達成する函数の安定性について, 情報理論的な函数不等式を組み合わせることで定量的な評価を得た.