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第15回物理学ゼミナール(プロジェクト・ゼミナール)
[日時]  平成19年11月8日(木) 16時10分より
[場所]  理学部2号館1階大講義室(C122室)
[講師]  乾 雅祝 准教授(広島大学総合科学部)
[演題]  溶融アルカリハライドのダイナミクス
-溶融CsClの高分解能非弾性X線散乱測定から-
要旨
溶融アルカリハライドは、陽イオンと陰イオンが交互に配列するイオン結晶に類似な化学的短範囲秩序をもつ系である。実際Clの同位体置換法を用いた中性子散乱実験により、有名な溶融NaCl[1]をはじめ、このような短範囲秩序を示唆する部分構造因子と動径分布関数が次々と報告されている。1980年代に同じくClの同位体置換法を用いた非弾性中性子散乱実験が行われ溶融アルカリハライドのダイナミクスも調べられた[2]。Q > 15nm-1程度の運動量領域について密度-密度相関ならびに電荷-電荷相関を表す動的部分構造因子が求められたが、当時の中性子散乱測定ではQの小さい領域の動的構造因子については信頼できる結果が報告されていない。
1990年代後半に非弾性X線散乱実験の分解能がmeVオーダーまで向上し、液体の原子ダイナミクスの研究に盛んに利用され始めた。運動学的な制約のない非弾性X線散乱法はQの小さい領域のコヒーレントなダイナミクスの研究に威力を発揮できる。これまで溶融NaCl、NaIならびにKClの非弾性X線散乱測定が行われ、Qの小さい領域のエネルギー-運動量分散関係などが報告されている。我々は溶融CsClのダイナミクスを調べるためSPring-8の放射光を利用して高分解能非弾性X線散乱実験を行った[3]。
実験の結果Qの小さい領域では音響モードを示唆する非弾性シグナルが準弾性散乱ピークの両側に肩として観測された。このモードの励起エネルギーは、断熱音速に比べて最大で約1.7倍速い分散を示した。このような速い分散は溶融NaClやKClでも見出されており、溶融アルカリハライドに共通の現象であると考えられる。
講演では、溶融アルカリハライドの原子スケールのダイナミクスについて考察する。
[1] F.G. Edwards et al. 1975 J. Phys. C 8 3483.
[2] R.L. McGreevy 1987 Sol. Stat. Phys. 40 247.
[3] M. Inui et al. 2007 to be published in J.Phys.:Condens. Matter.