purescience

第14号 2019年12月

同位体から水の起源を探る

地球環境科学コース 准教授 一柳 錦平

福島の原発事故や北朝鮮の核査察などで、国際原子力機構(International Atomic Energy Agency; IAEA)の名前を聞いたことがある方も多いと思います。核は危ないイメージですが、IAEAでは原子力の平和利用も行っており、同位体水文学セクションでは世界の降水同位体比データベース(Global Network of Isotopes in Precipitation; GNIP)に毎月の気温、湿度、降水量、降水の安定同位体比(δ2H, δ18O)、トリチウム濃度を公開しています。日本では1960年から1979年まで東京、1979年から2006年まで綾里で観測が行われてきましたが、残念ながら観測は途絶えてしまいました。

そこで、熊本大学水文学研究室では2015年よりGNIP観測を開始しました。現時点では日本で唯一のGNIP観測地点として、毎年、気象データや降水サンプルをIAEAに送っています。また、1時間間隔で降水量、気圧、気温、湿度、風向、風速の観測を行っていますので、気象データが必要な方はご連絡ください。

気象観測装置
熊本大学黒髪南キャンパスの気象観測装置

水の安定同位体は相変化する際に分別を起こすため、緯度や標高、海岸からの距離などの地理的要因、気温や降水量などの気象的要因によって、同位体比は変化します。そのため、水循環研究では“天然のトレーサー”と呼ばれており、降水の起源や水蒸気の輸送経路、気候変動の影響やモデルの検証、古気候の復元や食品の産地判別など、さまざまな研究に利用されています。