purescience

第13号 2018年12月

錯体分子を並べて作る機能性材料:分子世界のレゴブロック

化学コース 助教 大谷 亮

“ボトムアップ”という言葉を聞いたことがあるでしょうか。逆は“トップダウン”と言います。例えば、岩を削って像を作り出すのがトップダウン、細かい砂を集めて同型の像を作り上げるのがボトムアップです。どちらの手法が、より小さく繊細なものを作れそうでしょうか。

今や身近になったコンピューターは時代とともにどんどん高性能化してきました。基盤を削って小型化するトップダウン技術が進歩してきたおかげです(もちろんそれだけではないですが)。しかし、削って小さくする技術はもうすぐ限界が来ると言われています。そこで求められているのが、分子を並べて役に立つ材料を作るボトムアップ技術です。オングストローム(10-10 m)やナノ(10-9 m)サイズの分子をレゴブロックのように並べることで、トップダウンでは作ることのできない機能性新物質を生み出します。

私たちの研究グループでは、金属イオンを含む錯体分子を最小単位としたボトムアップにより得られる物質化学を展開しています。金属イオン由来の電子機能はもちろんですが、独特の“分子の形”に由来した新機能発現が狙いです。例えば、図1に示す錯体分子たちを横方向に並べると、ナノレベルのジグザグ構造有する二次元シート物質が3種類得られます。さて、このジグザグ構造は熱をかけるとバネのように動くのですが、伸びると思いますか?それとも縮むと思いますか?

図1. 3種類の錯体分子とボトムアップにより合成したジグザグ二次元シート

答えは、1は伸び、2は縮み、3は変わらない、でした。詳細に検討すると、実はジグザグ構造であるということは関係なく、分子に潜む構造ひずみによって挙動が支配されていることが分かりました。“熱膨張”という非常に基本的な物理的性質を調べた研究ですが、分子ならではの機能発現と作り分けが可能であることを見出しました。上記の例では、横方向に並べましたが、もちろん縦方向に並べることもできます。分子レベルのレゴブロックが、将来の生活を一変させるかもしれません。