purescience
第12号 2017年11月
「自然界から見出される医農薬候補化合物を合成する」
化学コース 准教授 石川 勇人
2015年、北里大学の大村智特別名誉教授がノーベル医学生理学賞を受賞されたことは記憶に新しいことだと思います。大村先生は、自然界に普遍的に存在する微生物から抗寄生虫薬「イベルメクチン」を見つけ出し、さらに生産微生物の大量培養に成功し、アフリカなどで猛威を振るっていた感染症を撲滅に追い込みました。このように自然界には、医薬や農薬として威力を発揮する化学物質が数多く存在しています。しかしながら、それら化合物の多くはイベルメクチンのように大量に手に入れることができません。私たちの研究グループでは、「自然界から見つかったが、大量に供給する手段がない有力医農薬化合物」を、人工的に化学合成し、供給することを目標に日々研究に邁進しています。例えば、私たちの研究室で発見された「Kumamonamide」と命名した化合物は植物成長阻害活性を有していることがわかっていましたが、生産微生物からはわずか数十mgしか単離することができませんでした。そこで、大量供給を目的に化学合成法を確立し、さらに、その手法を応用してより生物活性の強い化合物へと誘導しました。供給された一連の化合物は、正常細胞や酵母などの動物細胞には毒性を示さないことも明らかとなり、環境に優しい除草剤になる可能性を秘めています。
また、微生物由来の「WIN64745」という化合物を、安価に売られているアミノ酸から、独自に開発した手法で大量合成することに成功しました。この化合物の詳細な生物活性試験の結果、動脈硬化治療薬および抗がん剤として利用できる可能性を見出しました。