化学実験の指針



化学実験を安全に行うための指針

はじめに

自然科学に実験は欠かせない。特に化学の研究はほとんどが実験から成り立つ。 人にもよるが概ね実験をすることは楽しいものである。予想された結果が得られ たときの嬉しさ、予想外の事実が世界ではじめて明らかにされたときの気分の高 まりなど、研究者冥利を実感する瞬間である。しかし、それに到達するには、周 到な準備、失敗を我慢して実験を継続する根気、得られたデータを分析して再現 性のあるものかどうかを判定し、そして得られた結果の冷静な評価が必要である。 学生諸君の研究を見ていると、なかなかこのようには行かない。まず、実験には 危険は付き物だが、これを怖くてはどうしようもない。それをどのようにクリヤ するか。実験中、様々な状態の変化を見逃さず観察し、ノートに記録する。我々 は分子一個一個を肉眼で見ることは出来ないから、分子の集合体について観測さ れる諸変化が個々の分子自身の変化とどう関連するかを想像力の助けを借りて推 察する。そして、それらの得られた事実、推論、それをサポートする実験的事実 を他人に納得させるような文章で発表することで一つの研究が完結する。

これらのことを実現するために、次の諸注意を守ることが大切となる。
  1. 化学実験を安全に行うため、基本的な事項を箇条書きにしたものについて、 あらかじめイメージトレーニングをすることで実際の役に立てるようにして おく。
  2. 実験の記録を出来るだけ綿密に記録する。記録の仕方はある程度個人個人で 違っても構わないが、他人が見て全く分からないようでは困る。当然、ある 種のルールに則った実験ノートの書き方がある。
  3. レポートの書き方についても、その構成の仕方(実験題目、目的、緒言、実験 操作、結果と考察、引用文献など)があり、数値の取り扱い、適切な化学用語、 単位の使い方など化学独特のものがあるので、それらについて理解し、反復 練習することで自分のものにすることを期待したい。
1996年3月化学教室
(平成7年度安全管理委員黒澤 和教授著)
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化学実験を安全に行うために

化学の実験には必ず危険が伴うので、学生が行う場合は必ず指導員の指示、 あるいは監督のもとで行う。
  1. 事前の準備
    1. 当日行う実験内容を前以って予習する。
    2. 服装は身軽なものを心がけ、
      • 防護メガネ
      • ゴーグル
      • 防護面
      • ゴム(プラスチック)手袋
      • 実験衣
      を適宜使用する。長髪は束ね、肌(腕、足)は出来るだけ露出しないこと。
    3. 教科書、参考書、リーフレット、ノートの類は、カバンに入れ、実験台 の下のスペースまたは水や薬品のかからない安全な場所に置く。
    4. 筆記する用具は鉛筆が良い。水、有機溶媒に対して消えにくいし、保存 には最適である。
    5. 身体の調子が悪いものは遠慮せずに申し出て、別の時間に行うようにす る。
    6. 実験室には救急箱、消火器、消火用シャワーなどが用意されているので、 その設置場所を前以って確認しておくこと。
    7. 規模の大きい火災、ガスの漏出、地震などが発生し避難する必要がある ときに備えて、避難経路をあらかじめ熟知しておくこと。

  2. 実験室
    自分の実験では、危険な試薬などを使っていなくても隣人の実験では使って いる可能性がある。実験室内では、防護メガネと実験衣をするように心がけ る。
    1. 試薬
      • 取り扱う薬品の性質について事前に調べ、実際の取り扱いについて は指導員から指示を受ける。
      • ラベルが貼ってない試薬ビンの薬品は絶対使用しない。
      • 試薬ビンはラベルの貼ってある側を握る。
      • 使用しなくなった薬品、廃液の処分については指導員の指示に従う。
    2. 実験台
      • 台上には必要な器具や試薬類、ノート、筆記具などの実験に使う物 のみを置き、使わない物はすべて実験の妨げにならないように片付 ける。
    3. 器具
      • 取り扱う器具類については指示された形、大きさ、材質のものかど うか、ピンホールのような破損が無いかどうかを確認してから使う。
    4. 高圧、減圧の実験も3と同様の注意をするが、特に目の保護には充分注意 する(保護メガネの使用)。
    5. 有毒あるいは刺激臭気体が発生する実験や、長時間可燃性の溶媒を用い る実験はドラフト内(通気ボックス)でおこなう。
    6. 実験廃棄物は大学が定める分類に従って処分し、洗浄液を含めてみだり に下水に流さないこと。
    7. 薬品が皮膚に付いた場合はすぐに多量の水で洗浄し、必要があれば医師の 手当てを受ける。
    8. 実験終了後は使用しなかった薬品類は所定の場所に戻し、不要になったも の、ゴミ、ガラス片は所定の容器に入れ、可燃性のものはその日のうちに 焼却する。器具類は洗浄し、次回の実験ですぐ使えるようにする。

  3. 退室時の注意
    1. 電気器具はそのプラグをコンセントからはずす。ガスは元栓で止め、水道 も元栓を閉じる。継続して使用する場合は指導員に指示を受け、その安全 を確認する。
    2. 窓、中の仕切りドア、出入り口のドアを閉じ、あるいは施錠して退室する。
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学生実験

はじめに

本冊子の冒頭に「実験は実験ノートを準備することから始まる」と記されて いるように、実験の記録をノートに細大もらさず残すことは必要不可欠であ ります。そして、その記録の仕方はひとりよがりのものであってはならず、 そこには自ずとある種のルールがあります。

また実験ノートに基づいて書くレポートは、簡潔でしかも著者の意向が十分 に伝わるものでなければなりません。本冊子はそれらの指針を細部に亙って 示したものであります。

付録には種々の物理量の求め方をはじめ、グラフの書 き方、単位の使い方、引用文献の略し方などが収録されており、学生諸君は もとより、現役の研究者にとっても大変に参考になる事項を纏めてあります ので、十分に活用ください。とくに、はじめて化学実験を行う一年生はこの 指針を常に座右におき、訓練を重ねるよう期待します。
1986年3月化学教室
(昭和60年度化学科主任甲斐文朗教授著)
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実験ノートの書き方

実験は実験ノートを準備することから始まる。予習に基づいて実験を行う際 には実験ノートを十分に活用し、得られた結果のまとめや考察なども実験ノ ートの記述に従って更に深く検討を加える。そして最後に実験レポートを書 く場合には、それまでに実験ノートに記された総ての内容を参照しながら、 簡潔な文章で明解な内容の実験報告を作成する。このように実験ノートはそ の実験にとって不可欠なものであるから、以下に記す「書き方」の本質をよ く理解し、さらに自分で工夫を加えながら 、より有効な利用法を考えるように心掛けたい。実験ノート の体裁については、いわゆる大学ノート(ファイル状のノートは避け、サイズ はA4が望ましい)を用意し、第一ページは目次として用い、二ページ目から見 開きにして利用する。

左ページ < -- 実験の前日までに以下の要領で作成しておく 右ページ -- > 実験中および実験後に記入する
L1
実験題目
R1
実験年月日・曜日
年月日には西暦を用い月日は略さずに書く。また、より詳しく は「O時O分からX時X分まで」と時間も記録しておく。
L2
原理
行おうとする実験がどんな理論や既知の事実に基づいている のか。結果の解釈やデータの解析に有用な反応式・理論式・ 数値などはどのようにして導かれたものか(それらについて 信頼できる参考文献にはどんなものがあるか)。
R2
実験場所
R3
実験環境

天気・気温・湿度・気圧(分かるものは総て記録しておく)。

-- > これらは実験内容や測定自体に影響 を及ぼすことがあるので記録する習慣を付けるとよい(測定 時刻も併記すべきである)。

R4
共同実験者氏名(共同実験の場合のみ)
L3
使用する試料・試薬・器具・装置
実験で使用する試料・試薬・器具・装置について詳しく記す。 実際に用いた試薬や装置などを特定しなければならない物に ついては、一行に一つずつ記しておき、実験中に右ページの 対応する行にそれらの記録をとるようにする。また、
  • この実験で本質的な役割を果たすもの
  • この実験で初めて使うもの
については、特に重点的に調べ、必要事項(試薬の性質、器具 の特徴、装置の原理[動作原理、測定原理]や取り扱い方法など) を整理して記録しておく。
R5
注意事項
テキストに従って予習してきた実験内容が、都合で変更になる 場合がある。それらは教官から説明があるので、間違えぬよう に、変更点や注意事項を一箇所にまとめて記録しておくこと。 そして直ちに、実験操作のフローチャート中の必要箇所にそれ らを書き加えておく。また、L7で予想を立てた際に考えついた 追加実験についても、教官の許可が得られた場合にはその実施 に必要な事項を記録しておく。
L4
概念図・装置図
自分が理解した実験の概要を図示することによってその内容を 整理してみる。また、合成や測定のために自分で装置を組む必 要がある場合には、注意事項を書き加えた組立図を描いておく ことが重要である。
R6
実験経過
フローチャートに従い、各工程の記述と対照されている位置に 記す。自分で実際に行った操作や測定の経過について観察結果 も加えながら詳しい記録を取る(試料の色や状態の変化のよう な時間的経過の記録、測定値の異常な挙動、予想事項との差異 などについて、その理由も考えながら記入していく)。数値に ついては表にして記録することを心掛けるとよい。この過程で、 実験を「失敗した」と思ったことは、ありのまま特に詳しく記 録しておくこと(-- > 実は失敗ではなく、単なる考え違い であったと言うことが多い;なぜ失敗と思ったのか、その理由 も付記しておくこと)。その上でもう一度落ち着いて操作内容 などを検討してみる。

実験ノートの中で、いったん記述した事項(特に測定値などの数値)を訂 正する場合には、訂正前の字を消しゴム(訂正インク)を使って消したり、 または逆に塗りつぶしたりしてはならない(後になって、「訂正したこ と」が誤りであったということもありうる)。訂正する部分の文字が訂 正後も読めるように横線を引いて消し、その上の空白部分に正しく書き 直す。数値の場合などは、訂正すべき一部の数字だけを改めても誤読さ れやすいので、(正しい字も含めた)数値全体を消したのち改めて正しい 数値を書き加えること。なお、訂正したことをはっきりさせるために、 字の色を変えるなどの工夫をするとよい。
L5
実験操作
フローチャート(工程図)にまとめる。特に重要な操作、慎重を 期する操作、観察を要する操作を自ら予測しておき、それらに 対しては記号などを用いて注意を喚起する。

なお、実験を行う際は、テキストは使わ ずに実験ノートのみに依り操作を進めること!!
L6
目的
テキストの「要旨」などを丸写しにするのではなく、L1からL5 までの間で理解したこの実験が何を目的とするものか、その意 義についてよく考え、自分の頭の中で整理して書く。目的は一 つとは限らないから、多角的な検討が必要である。
L7
予想
各実験操作に応じて何が起こるかについて、頭の中で架空実験 を行い、反応式や実験原理に基づいて起きる化学変化の様子な どを予想してみる。測定が関与する実験については、与えられ た条件下での測定値や誤差とその要因についても考える。その ような検討の結果として、テキストには特に指示されていなく ても、実験目的を存分に達成するために有用な実験を考え付く ことがある。それについては、実施の可能性を具体的に検討し、 可能性が高いと判断した場合にはL5のフローチャート中にその 実験内容を記入しておく。そして実験を始める前に、このこと について教官に相談してみるのが良い。このように、実験に先 立って予想を立てることは、その実験をより有意義に行うため に極めて重要なことである。
R7
付随実験についての記録
実験の進行具合によっては、予期しなかった結果や経過のため に付加的な実験を試みなければならないこともある。また、本 来の目的を補強するために実施が望ましい実験も生じうる。こ れらを実行した場合には、その理由や方法などL2からL5に準じ た記録を忘れずにとっておくこと。それらは後に考察を加える 際にも重要である。
R8
予備解析など
測定を伴う実験の場合には、単に数値の記録を行うだけでなく、 測定値を用いて求める物理量の概算やグラフへのプロットなど、 測定に並行して、予備的な解析を行うように努めるべきである。 このことによって測定値の誤りや測定自体に含まれる問題を見 出して、直ちに実験をやり直す必要性に気付いたり、測定精度 の向上に掬びつけたりすることができる。合成実験ついては、 収率などの簡単な計算も行う。

ここまでを実験中に記録する。
L8
参考文献
L2、L3、L5からL7の各項目についての予習を行う過程では多く の参考文献(テキストも含め、実験指導書・教科書・参考書・ データ集・抄録・批評記事・原論文など)を必要とする筈であ る。これらの実際に引用した文献について、文献番号を付して 一箇所にまとめておく(なお文中の引用箇所にはその文献番 号を用いて引用を明示する)。引用文献については著者(編・訳 者)名、書名、巻数、(単行本の場合には出版社名、)発行年、 ページ数を略さずに記入すること。
R9
まとめ
実験結果のまとめや得られたデータの解析などを行う。生成物 の物理・化学的データや、最終結果とそれに関する表・グラフ などを整理して示す(物理量などの解析を行った場合には、用 いた式や定数などの出典を明記しておくこと)。
R10
所見
観察事項の解釈、生成物や反応の評価、実測値と理論値や文献 値との比較など、注意深く実験の総括を行う。殊に予想事項と 実際の結果との比較検討は重要である。
R11
考察
素朴な疑問点も含めた論点(問題)を自ら見出(設定)し、その説 明をいろいろな角度から試みる。「考察」は実験記録にとって 最も重要であり、その対象は広範に及ぶ。「所見」で特記した 事項に関する解釈、実験結果の持つ意味、実験の結果として見 出した実験上・理論上の問題点とその対処法などについて、当 初の実験目的を考え併せながら論述する。重要なことは、科学 的な意味を持つ考えの中からどれが信頼すべき、もしくは根拠 のある解釈なのか、自分の頭で取捨選択しながら論理的な考察 を行うことである。ここで、参考文献に照らすことはきわめて 有用であるが、文献ばかり頼りすぎて考えることを怠るとかえ って問題の本質を見失うことがあるので注意しなくてはならな い。
R12
参考文献
R7からR11において新たに参照した文献のリストを追加する。

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レポートの書き方

実験レポートは、その実験が著者のどのような考えの基に何を目的としてどんな 原理に基づいて行われ、その結果として何が得られ、著者が何を考察してどんな ことを結論したのかということが、第三者に明瞭に伝わらなくてはならない。従 って、「実験報告」である以前に、まず明瞭な文章として書かれたものでなけれ ばならないことは言うまでもない。たとえば図表や式を示す場合でも、単にそれ らを掲げるだけでなく、その前後には筋の通った文による説明が与えられていな ければならない。

体裁については、A4のレポート用紙を縦長において横書きにし、ペンやボールペン などの(黒)インクで書く。鉛筆はグラフなど特別な場合のみ用いる。レポートは各 題目ごとに完結したものでなければならない。レポートはA4版紙ファイルに新しい レポートが上になるように順に綴じていく。

実際に書く実験レポートは、実験ノート(主に右ページ)に基づき、自分が行った実 験の報告として過不足ない内容を、正確な文章で簡潔に記せばよい。それには以下 に示すような事柄をまとめればよい。
  1. 実験題目

  2. 実験日、場所、環境
    実験ノートのR1からR3より転記する。

  3. 共同実験者氏名(共同実験の場合のみ)

  4. 目的
    実験ノートのL6を参考にして具体的かつ簡潔に書く。

  5. 緒言
    原理や予想などを中心にして、実験概要を把握する。

  6. 実験操作
    自分が実際に行った実験操作を具体的に詳しく書く。レポートでの操作の 記述は箇条書きなどにせず、一連の操作ごとに簡潔な文からなる段落を立 て、読者に分かり易い文章にして書く。「行った」ことの記録であるから 各々の文は過去形で記す。用いた試薬・器具・装置についてもできるだけ 詳しく正確に書く。試薬などの物質名は化学式を使わない。試薬の使用量 は物質名の後に括弧でくくって書き、ガラス器具などの容量は器具名の前 に書くなど、表記の仕方を統一すること。機器を用いて物質の諸性質を測 った場合など、その測定条件(温度・試料の状態・波長など)の記録は重要 である。また、必要に応じて図を挿入する。

  7. 結果
    実験ノートの右ページ(R6からR8)に照らして必要事項(例えば合成実験で は物質の状態変化の過程や、測定実験では生データなど)を記した後、R9 のまとめやデータの解析を経て得られた最終結果について詳しく書く。合 成した物質の評価(その根拠となったデータも示す)と収率や、文献値や理 論値に対する最終結果の差異を定量的に示すことも「結果」に含まれる。 結果の導出に用いた関係式や数式などは上記5項から引用することができ るが、この項(7)で初出の式などについては説明が必要である(計算の過程 を式で示す場合には、先ずその説明式を立てよ)。計算式は単位まで含め て示すなど、殊に数量(物理量)の単位に関する注意は重要である。また有 効数字の検討についても同様である。

  8. 考察
    実験ノートの右ページ(R11)に列記した内容を改めて自分の頭で整理し、 論理的に注意を払いながら、読者が理解できるように書く。「考察」は 「感想」ではないし、また参考文献の丸写しや不十分な理解に基づく見 当外れの推論を示すところでもない。実験結果について自分の頭の中で よく練った考えを具体的に書く。また、実験中に自ら工夫した点、自分 で疑問に思った点、実験を通じて分かった(広く科学的な)ことについて も書きもらさないようにする。

  9. 参考文献
    上記の4から8項について書く際に引用した文献を、文献番号を付して列 挙する。文中における各文献の引用箇所には、その語や句などの右肩に 文献番号を記して引用を明示する。引用文献の書き方は、以下に示す。

    (単行本の場合)
    数)
    著者名,編者名,訳者名,"書名",版数,出版社名(発行年)ページ数.
    ただし、洋書の場合は版数の後に編者を置き、出版社 の後に都市名を入れる。

    [例]
    (和文)
    1)
    E. J. Underwood 著,日本化学会訳編,"微量元素−栄養と毒性 −",丸善 (1975),p.79.
    2)
    C. Weedon, "Synthetic Organic Photochemistry", W. M. Horpool ed., Plenum Press, New York (1984), p.61.
    (以上、日化,1990(6)中の引用例)

    (英文)
    1)
    K. Izutsu, "Denkyoku-hanno No Kiso", ed. by T. Osa, Kyoritsu Shuppan, Tokyo (1973), Chap. 2.
    2)
    C. M. Mitchel, "X-ray Diffraction" in "Standard Methods of Chemical Analysis", 6th ed., ed. by F. J. Welcher, D. Van Nostrand, Princeton, New Jersey (1966), Vol. 3, Part A, Chap. 11, pp. 203-208.
    (以上、Bull. Chem. Soc. Jpn. 投稿の手引きよ り)

    (原論文の場合)
    数)
    著者名,雑誌名,巻数,ページ数 (発行年).
    ただし、巻号が発行年と同じ場合は発行年を省略す る。
    [例]
    1)
    E. J. Corey, A. M. Gross, Tetrahedron Lett., 26, 4291 (1985).
    2)
    J. A. Norman, C. B. Thomas, J. Chem. Soc., Perkin Trans. 1, 1985, 1087.

    雑誌名の略記法については、付録7を参照のこと。
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付録

1.測定値

真の値

ある物理量には、必ず一つ、しかもただ一つだけの正しい値があり、 この値を真の値という。

測定と見積り

測定器を用いてある物理量の測定を行う場合に、測定器の指度が被測 定量に一致することはまれである。従ってそのような場合には、目測 による値の見積りを行う必要がある。

[例]
容量分析においてビュレットの読みが目盛に一致することは まれであり、普通は目盛と目盛の間のメニスカスの位置を目 測で読み取る。

実測の限界

測定器の信頼度には必ず限界があるため、どのような測定によっても 真の値を得ることは一般に不可能である。

承認値(accepted (true) value、標準値、保証値などとも呼ばれ る)

ある一つの物理量を、方法や信頼度の異なる測定により数多くの測定 値を得たとして、その結果を総て平均すれば測定器の許容限度次第で 真の値に近い値が求まるであろう。このように「真の値」と信じられ る値を承認値という。通俗的には、承認値が真の値と等価と考えられ る。

確度(accuracy、正確さ)

実測値と真の値との差を確度と言う。しかし上述のように真の値は不 明であることが多いので、真の値の代わりに承認値との差を指す。

精度(precision、精密さ)

承認値が不明で、実測値の間での比較しかできない場合もしばしばあ る。このようなとき、ほぼ同一条件の下で得られた実測値の集積を代 表するのは、それらについての平均値であり、これを最確値と呼ぶ。 そして、一連の測定において得られた個々の値と最確値との差を、各 々の値の精度という。

確度と精度

実験値の評価については、各々独立した意味を持つ確度と精度の双方 が重要である。通俗的に「高精度の測定」と言う場合には、実はこの 両方のうち、どちらか一方だけを意味しているのか、または両方を共 に含んでいるのかを見極めなくてはならない。

[例]
射的の的の中心が「承認値」であるとすれば、4発撃って次 のような当たり方をした場合には、各々の信頼度(質)は異な る。
的 的 的 的 的 的
得点 400点400点 160点160点
確度
精度
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2.誤差

絶対誤差

実験データの信頼限界を示す定量的な尺度を実験データの誤差という。 ある二つの測定値の差として表される誤差を絶対誤差と呼ぶ。絶対誤 差は測定値と同じ単位を持つ。承認値に対する測定値の絶対誤差はそ の値の確度に相当し、測定値の平均値に対するある一つの測定値の絶 対誤差はその精度に当たる。

同種の物理量に関する二つの測定について、各々の絶対誤差が同じで も測定の信頼度は一般に異なる。

[例]
熊本−福岡間の距離の測定と廊下の幅の測定に対して、絶対 誤差がどちらも20cmである場合には、その測定の信頼度に大 きな差があることは明らかである。

相対誤差

ある測定の持つ誤差を、測定値に対するその絶対誤差の比として表す とき、この比を相対誤差と呼ぶ。相対誤差は同じ単位を持つ物理量の 比であるから無名数であるが、一般的には百分率(%)で示される。上 の例のように、著しく大きさの異なる測定値の誤差を比較する際は、 絶対誤差よりも相対誤差の方が有用である。

系統誤差

ある測定に用いた測定器固有の誤差により、測定値が本来測定される べき値よりも常にほぼ同じ大きさだけ大きいか、あるいは小さく測定 される場合に、その一定の絶対誤差のことを系統誤差という。このよ うな測定値については、その測定器を用いて、承認値の定まっている 系に対する測定を行い、得られた測定値の確度に基づいて補正因子を 決定する。これによって、測定データに系統誤差が含まれていること に対する補正を行うことができる。系統誤差は注意深い実験によって 除き得る。

偶発誤差(乱雑誤差、偶然誤差、不規則誤差などとも呼ばれる)

系統誤差と異なり、同一の測定系による測定値であっても、測定値ご とに符号も大きさも変化する誤差を偶発誤差という。その原因は一定 したものではないから、系統誤差のような「補正」を行うことができ ない。しかし、測定の回数が増せば、実測値に対する正・負の誤差が 互いに打ち消しあうようになると考えることができる。有限回数の測 定が有意義であるためには、その偶発誤差を合理的かつ定量的に見積 ることが必要となる。

ある測定値の偶発誤差の見積りは、(たまたま測定された)最大の誤差 に依るのではなく、合理的な最大誤差に基づかなくてはならない。

[例]
目盛の1桁下まで読むような測定については、多数の人によ りなされた測定結果から、最小目盛の±0.2が偶発誤差(この 場合には視差がそれに相当する)の見積りとして有効である ことが分かっている。

ある測定値Xu(Xは数値、uはその物理量の単位)の偶発誤差を±xu(xも 数値)とすれば、X±xuのように表す。

偶発誤差を持つ二種類の測定値に演算を施すと、その結果に含まれる 偶発誤差は次のように見積れる。二つの測定値m1、 m2の誤差をそれぞれ±e1、±e2 とすると、それらの和(差)の誤差Es、および積(商) Mpの誤差 Epはそれぞれ、

Es = (e12 + e22)1/2
Ep = Mp{(e1/m1)2 + (e2/m2)2}1/2
となる。

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3.有効数字

(G. D. Christain, "Analytical Chemistry", 5th ed., John Wiley and Sons, Inc., New York NY (1994), p.15.)

同条件の測定にばらつきがあるとき、その算術平均(相加平均)を最確値とい い、その数値の信頼できる桁数を有効数字という。有効数字以下の数字は書 いてもデータとしての意味を持たない。測定では普通、測定機機・器具の最 小目盛の1/10まで読み取る。従って、末位の数字は目測による見積りの数で ある。有効数字にはこの末位の数字も含めて表示する。

誤差が示されていない数値は、最後の桁に±0.5のあいまいさがあるものと 考える。例えば35.4は有効数字が3桁で±0.05のあいまいさがあり、35.40で は有効数字4桁、±0.005のあいまいさを持つ。従って、10間隔で測定した値 290は2.9x102と表すと有効数字が2桁であることが正しく示さ れ、290と書くと1目盛間隔で測定し有効数字は3桁であることを示す。下記 の数の有効数字の桁数は次のようになる。

[例]
35401有効数字5桁
0.3540有効数字4桁
0.354有効数字3桁
3.54x105有効数字3桁

有効数字を加減して得た数値の有効数字の末位は、高い位の有効数字の末位 と同じになってしまう。下記の例で35.4および15.4は0.1の桁までしか分か っていない。従って、0.1以下の数字が他の数では分かっていても加減算の 結果は0.1以下の数字が不確かなものとなる。また、除して得た数値は有効 数字の桁数の小さい方の桁数と同じになってしまう。即ち、乗除算の結果は 確かさの最も低い数(有効数字の桁数が最も小さい数、キーナンバー)によっ て左右される。有効数字以下の数字は四捨五入して丸め込む。

[例]
有効数字を考慮した計算結果は矢印(-->)の先に示す。
35.4 + 0.354 = 35.754 -->35.8
15.4 - 8.395 = 7.005 -->7.0
35.4 x 2.016 = 7.13664 -->7.14
354.54 x 21 = 7445.34 -->7.4x103
3545.4/253.0 = 14.0134 -->14.01
0.3545/8.64 = 0.04103 -->0.0410

小数点の位置や符号に関係なく数値計算の解がキーナンバーよりも小さい場 合、不確かさの最小値を表示するために数字を一つまたは二つ付け足す。た だし、その数字はかなりのあいまいさを含むことを示すために下付きで表示 する。

[例]
下記の計算について有効数字の桁数およびキーナンバーは次のように なる。
42.68 x 891 / (132.6 x 0.5247) = 546.57
キーナンバーは891である。解の絶対値がキーナンバーの絶対値より 小さいので、解は546.6となる。末位の6はそれがかなり のあいまいさを含むことを示すために下付きで表示する。キーナン バー自体に1/891の不確かさがあり、解も少なくとも6/5466(=1/911) の不確かさがある。

乗除算では最終解が有効数字を保つように各々の計算の各段階の解は統計的 処理により丸めを行うこともある。しかし、最終解の信頼性を保つためには 有効数字の末位の二つまたは一つ下の桁の数字を含めて計算を行い、最後に 丸める。

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4.収率の計算

出発物質(原料)から反応式に従って理論的に生成する目的化合物の量(理論 収量)に対して、実際に得られた生成物の量(収量)の比率を百分率で表した ものを収率という。
収率% = (収量g / 理論収量g) x 100%

理論収量を計算するとき、原料のどれを基準にするかが問題となる。しかし、 合成実験においては、原料(starting material)に対して試薬(reagent)を等モ ル用いることはなく、必ず過剰に加える。そうすることにより、原料をなるべ く効果的に生成物に変換しようとするのである。また複数の原料を用いる場合 もあるから、理論収量の計算には反応を主体的に構成する原料を基準に採ると よい。しかし、反応の性質によっては、どれが基準になるか紛らわしい場合が ある。そのようなときには、何を基準にして計算した収率かを明記する。

[例]
原料試薬 生成物
HNO3
C6H6 ---> C6H5NO2
(H2SO4)
Mw = 78.114 Mw = 123.11

ただし、Mwは分子量または式量

ベンゼン(5.25g)からニトロベンゼン(4.31g)が得られたとする。まず、 理論収量は
5.25g x (123.11/78.114) = 8.27g
であり、従って収率は
(4.31g/8.27g) x 100% = 52.1%
となる。この値は有効数字の点からは正しい。しかし、実際には出発 物質が何の副反応も起こさないで反応式通りに目的物を与えることは 少ない。また、反応後の分離精製(再結晶、蒸留、抽出など)の際にも かなりの損失があるので、小数点以下の数字の議論は無意味である。 よって、収率の表示としては、52%と記す。

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5.単位

物理量の値は数値(純粋な数)と単位との積である:
物理量 = 数値 x 単位

従って、測定値などを示す場合には単位も明記すること。また、物理量を含む 計算式は数値だけでなく必ず単位と共に示すこと。

単位の使用についてはSI単位を原則とする。SI単位系は、SI単位[基本単位(7 種類)、補助単位(2種類)、誘導単位(固有記号のある単位と固有記号の無い単 位)]、およびSI接頭語からなっている。これらのうちから、基礎的な化学の実 験で多用される単位を以下の表に示しておくので、レポートなどにはできるだ けそれらの単位を用いること。

I.SI基本単位
物理量 SI単位の名称 SI単位の記号
長さメートルmeter m
質量キログラムkilogram kg
時間second s
電流アンペアampere A
熱力学的温度ケルビンkelvin K
物質の量モルmole mol
光度カンデラcandela cd

II.SI補助単位
物理量 SI単位の名称 記号 SI基本単位による表現
平面角ラジアンradian rad m m-1 = 1
立体角ステラジアンsteradian sr m2 m-2 = 1

III.SI誘導単位
i.特別の名称と記号をもつもの(主なものを示す)
物理量 SI単位の名称 記号 SI基本単位による表現
周波数ヘルツhertz Hzs-1
エネルギージュールjoule J kg m2 s-2
ニュートンnewton N kg m s-2 = J m-1
仕事率ワットwatt W kg m2 s-3 = J s-1
圧力パスカルpascal Pa kg m-1 s-2 = N m-2 = J m -3
電荷クーロンcoulomb Cs A
電位、起電力ボルトvolt V kg m2 s-3 A-1 = J A-1 s-1
電気抵抗オームohm Ω kg m2 s-3 A-2 = V A-1 = S-1
コンダクタンスジーメンスsiemens S kg-1 m-2 s3 A2 = Ω-1
静電容量ファラッドfarad F A2 s4 kg-1 m-2 = A s V-1
インダクタンスヘンリーhenry H m2 kg s-2 A-2 = V A-1 s
セルシウス度スルシウス度degree of Celsius K(定義 Θ/℃ = T/K -273.15)

ii.その他のSI誘導単位(主なものを示す)
物理量 SI単位による表現
波数メートル分の1m-1
面積平方メートルm2
体積立方メートルm3
速度メートル毎秒m s-1
加速度メートル毎秒の二乗 m s-2
密度(質量密度)キログラム毎立方メートル kg m-3
電場強度ボルト毎メートル V m-1 = kg m s-3A-1
磁場強度アンペア毎メートル A m-1
電気伝導率ジーメンス毎メートル S m-1 = s3 A2 kg-1 m-3
双極子モーメントクーロン・メートル C m = A s m
磁気モーメントアンペア・平方メートル A m2
熱伝導率ワット毎メートル・ケルビン W m-1 K-1 = kg m s-3 K-1
熱容量、エントロピージュール毎ケルビン J K-1 = kg m2 s-2 K-1
比熱容量、比エントロピー ジュール毎キログラム・ケルビン J kg-1 K-1 = m2 s-2 K-1
モル熱容量、モルエントロピー、気体定数 ジュール毎ケルビン・モル J K-1 mol-1 = kg m2 s-2 K-1 mol-1
濃度モル毎立方メートル mol m-3
重量モル濃度モル毎キログラム mol kg-1

IV.SI接頭語
大きさ SI接頭語 記号
1024ヨタyottaY
1021ゼタzettaZ
1018エクサexaE
1015ペタpetaP
1012テラteraT
109ギガgigaG
106メガmegaM
103キロkilok
102ヘクトhectoh
10デカdecada
10-1デシdecid
10-2センチcentic
10-3ミリmillim
10-6マイクロmicroμ
10-9ナノnanon
10-12ピコpicop
10-15フェムトfemtof
10-18アットattoa
10-21ゼプトzeptoz
10-24ヨクトyoctoy

V.非SI単位

以下の単位はSI単位ではないので厳密には使用すべきではないが、精度 を要しない場合など特別な場合には(従来からの習慣上)止むを得ず使用 することがある。

1964年に国際度量衡総会(CGPM)の決定によりリットルの古い定義(それ によると1l = 1.000028 dm3)は廃止され、新たにリットル という用語で立方デシメートルを表す非SI系の特別の名称として用いら れるようになった。しかしあいまいさの恐れがあるので、CGPMは高精度 の結果を表現するときには、リットルという名称やその記号を使用すべ きでないと勧告している。

トンという単位は日常生活では今後も使われるであろうが、英トンすな わち1.0160469088Mgを意味する大トンと、米トンすなわち0.907184714Mg を意味する小トンと混乱しやすいためもあって、科学者は多分この単位 を用いることはほとんどないものと思われる。

物理量 単位の名称 記号 SI単位による値
体積リットル(liter) l, L 10-3 m3 = dm3
長さオングストローム(angstrom) 10-10 m
質量トン(tonne) t103 kg
時間分(minute) min60 s
時間(hour) h3600 s
日(day) d86400 s
平面角度(degree) °(π/180) rad
圧力バール(bar) bar105 Pa
気圧 atm101325 Pa
常用ミリメートル水銀柱 mmHg13.5951 x 9.80655 Pa
トル Torr(101325/760) Pa
ポンド毎平方インチ psi6.894757 x 103 Pa
エネルギーキロワット時 kW h3.6 x 104 J
熱化学カロリー cal4.184 J
濃度モル濃度(モーラー) Mmol dm-3
磁束密度テスラ(tesla) T J A-1 m-2 = Wb m-2
ガウス(gauss, emm) G10-4 T

注意事項:
  • 使用してはならない単位
    cc(シーシー)-------->cm3と書き換 える
    mμ(ミリミクロン)---->nmと書き換える
    A(オングストローム)-->nmなどを用いる

  • 使わないことが望ましいが、使用するときは定義を示す こと。
    Torr (トル)
    定義 101325/760 (= 133.322) Pa
    mmHg (mm水銀柱)
    定義 13.5951 x 980.665 x 10-2 (= 133.322) Pa

  • SI単位と併用してもよい単位
    min(分)、h(時)、l(リットル)、℃(セルシウス度)。 second、minute、hourの単位記号は、s、min、h。 これらの単位に複数形の意味でsを付ける必要はな い。

  • その他の注意
    モル濃度(定義 1 M = 1 mol dm-3)につ いてはmol m-3、mol dm-3 などで示すことが原則であるが、学生実験ではM、 mM、μMの定義の記載を省略することができる。た だし、これらの記号は定義通りの意味に用いなけれ ばならない。単位molに複数形のsを付ける必要はな い。規定度(N)は使 用しない。ppm、wt%(重量百分率)、 vol%(体積百分率)などの使用は妨げない。

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6.グラフについて

ある測定を行ってその結果を表にしてみても、そこに与えられたデータを解釈 しようとすると容易でないことがしばしばある。そのようなとき、データを一 括してグラフに示すことは次のような利点がある。


従って、データをグラフに表すことは、データの整理・解析を行い、また、何 らかの数値を求めるために最も重要な手続きの一つである。

グラフ用紙の選択

われわれが通常グラフ用紙と呼んでいるのは1mmの方眼紙で、大きさ はA4版の物が一般的である。グラフ用紙には他に、片対数・両対数・ 等角方眼・円形方眼などの種類や、B5からA1などの大きさ、均質紙や トレース紙などの紙質が異なるものなど多種多様である。従って、目 的や用途に応じて適切なものを使い分けるようにするとよい。例えば 対数軸を持つグラフ用紙にある現象の測定結果を直接プロットしてみ ると、複雑な計算をしなくても測定値の示す傾向(規則性)が一目瞭然 となることが多い。

軸のとり方

通常はグラフ用紙上に2本の直交線を引いて軸とする。横軸(水平線) には独立変数(われわれが目的に応じて勝手に変化させることのでき る物理量)、縦軸(垂直線)には従属変数(独立変数に応じて測定される 物理量)を、それぞれ右および上に向かって増加するようにとるのが 一般的である。軸には目盛を打ち、適当な間隔をおいて目盛に数値を 添える。また両軸の変数についても明示する必要がある。軸上に示さ れるのは単に数値のみとなるよう、軸の名称は「軸の名称(物理量)/ 単位」(これが数値を与える)として示す。目盛の間隔と範囲の選択は 極めて重要である。データの総てをなるべく容易にプロットできるよ うにそれらを選ぶことは言うまでもないが、プロットした点から両変 数の間の数量的関係が見出しやすい(直線関係は軸に対して約45°の 線上に点が並ぶようなプロットにすると見やすい)ように目盛の間隔 を決めたり、後に外挿線や切片を求めることができるように範囲を定 めたりする配慮が不可欠である。さらに、図の下側の適当なところに 図の名称を付ける。図が多数あるときは名称のほかに図番号を付ける。 なお、表の場合は表番号および名称は表の上側に付けるのが一般的で ある。

プロットの仕方

各データを、両軸の変数に応じた座標によりグラフ用紙上にプロット する。プロットはできるだけ小さな点で示す。そしてその点のまわり を適度な大きさの円で囲むのがよい。厳密にはこの円の大きさが実験 誤差の範囲を指示すべきであるが、通常この円はプロットした点の位 置を見つけやすいようにするためだけに用いる。なお、実験誤差の範 囲を示す方法としては、誤差範囲に相当する長さの線分を両軸に各々 平行に引いて示す、いわゆる「エラーバー(error bar)」を用いるの が一般的である。

直線や曲線の引き方

グラフ用紙にプロットされた点を直線や曲線で結ぼうとする前に、ま ずそのグラフでは個々の点が意味を持つのか、あるいはそれらの連な りとしての線が意味を持つのかを考えておかなくてはならない。そし てそれに応じて線の引き方にも異なった配慮が必要となる。例えば、 各点を総て通るような結び方をすべきか否か、滑らかにつなぐのがよ いか折り曲げて結ぶのがよいか、直線でつなぐか曲線を当てはめるか などについて考える。これらのことは、データの解釈などの当面して いる問題にとって本質に関わる。考えなしにまたは先入観を持って無 造作に線を引いてしまい、それにとらわれて問題点を見失うことがあ るから注意すべきである。

一般に、グラフ上の滑らかな線は両変数の間の定量関係を教えてくれ ることが多い。しかし一方では、滑らかなグラフを描いたり測定値を 内(外)挿したりする操作には、科学的に意味のある不規則点を見逃し てしまう危険性をはらんでいる。このことに関しても、測定に並行し ながらデータをグラフに逐次プロットしてゆくことが極めて有用であ る。すなわち、測定中に予想外の異常な値(グラフ上ではそれまでの 滑らかな傾向から外れる点)が得られたならば、その値を与えた条件 (独立変数)の近傍でさらに細かく測定点を選んで再測定を行い、その 不規則点の存否を確認することができる。

グラフに線を引く際、太い線を引くと精度が落ちるように思うためか 薄く細い線を描く人が少なくない。通常のグラフに有効数字3桁以上 の精度を要求するのは無理なことでもあるし、線は濃くはっきりと描 くようにすべきである。直線、曲線を問わず、線の引き方に習熟する と、最小二乗法の計算結果とほぼ同様の結果をグラフからアナログ的 に得ることも可能である。殊に曲線の引き方には様々な工夫が考えら れるので、各自で検討してみるとよい。


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7.主な雑誌の省略名

雑誌名の省略のしかたは、それぞれの国の化学会、物理学会などの 学会によって多少異なる。ここでは、アメリカ化学会発行雑誌の投 稿規定に従い、"The ACS Style Guide"より引用する。
  • Anal. Chem.
  • Anal. Chim. Acta
  • Angew. Chem.
  • Aust. J. Chem.
  • Biochem. J.
  • Bull. Chem. Soc. Jpn.
  • Can. J. Chem.
  • Chem. Abstr.
  • Chem. Ber.
  • Chem. Lett.
  • Helv. Chim. Acta
  • Inorg. Chem.
  • J. Am. Chem. Soc.
  • J. Chem. Phys.
  • J. Chem. Soc., Chem. Commun.
  • J. Chem. Soc., Dalton Trans.
  • J. Chem. Soc., Faraday Trans. 1
  • J. Chem. Soc., Faraday Trans. 2
  • J. Chem. Soc., Perkin Trans. 1
  • J. Chem. Soc., Perkin Trans. 2
  • J. Chromatogr.
  • J. Inorgnomet. Chem.
  • J. Organomet. Chem.
  • J. Org. Chem.
  • J. Phys. Chem.
  • Org. Synth.
  • Tetrahedron Lett.
  • Z. Anorg. Allg. Chem.

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8.原子量表(1995) Ar(12C)=12

多くの元素の原子量値は一定ではなく、物質の起源や処理の仕方に 依存する。原子量とその不確かさ(カッコ内の数字、有効数字の最 後の桁に対応する)は地球上の元素に適応される。個々の元素に起 こりうるもので、原子量に付随して示されている不確かさを超える 可能性のある変動の様式は脚注に詳細に示されている。原子番号 104から111の元素名は暫定的である。

Javaを使っています。日本化学会原子量小委員会による原子量表 (化学と工業,49(4) (1996))を基にした。

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9.基本物理定数

各数値の後のカッコ内に示した数はその数値の標準偏差を最終桁の1 を単位として表したものである。

単位の記号にはローマン体(立体) 活字を用い、複数を意味する場合でも形を変えず、文末にく るとき以外はピリオドを打たない。

物理量を示す記号はイタリック体 (斜体)活字を用いる。

物理量 記号 数値 単位
真空の透磁率* permeability of vacuum* μ0 4πx10-7 N A-2
真空中の光速度* speed of light in vacuum* C0 299792458 m s-1
真空の誘電率* permittivity of vacuum* ε0 8.854187816x10-12 F m-1
電気素量 elementary charge e 1.60217733(49)x10-19 C
プランク定数 Plank constant h 6.6260755(40)x10-34 J s
アボガドロ定数 Avogadro constant L, NA 6.0221367(36)x1023 mol-1
電子の静止質量 rest mass of electron me 9.1093897(54)x10-31 kg
陽子の静止質量 rest mass of proton mp 1.6726231(10)x10-27 kg
ファラデー定数 Faraday constant F 9.6485309(29)x104 C mol-1
ハートリーエネルギー Hartree energy Eh 4.3597482(26)x10-18 J
ボーア半径 Bohr radius a0 5.29177249(24)x10-11 m
ボーア磁子 Bohr magneton μB 9.2740154(31)x10-24 J T-1
核磁子 nuclear magneton μN 5.0507866(17)x10-27 J T-1
リュードベリ定数 Rydberg constant Ry 10973731.534(13) m
気体定数 gas constant R 8.314510(70) J K mol-1
ボルツマン定数 Boltzmann constant k, kB 1.380658(12)x10-23 J K
重力定数 gravitational constant G 6.67259(85)x10-11 m3 kg-1 s-2
自由落下の標準加速度* standard acceleration due to gravity* gn 9.80665 m s-2
水の三重点* triple point of water* Ttp(H2O) 273.16 K
セルシウス温度目盛のゼロ点* zero of Celsius scale* T(0℃) 273.15 K
理想気体(1 bar、273.15 K)のモル体積 molar volume of ideal gas (at 1 bar and 273.15 K) V0 22.71108(19) dm3 mol-1
*定義された正確な値である。

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